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雑誌投稿記事 - 配管技術 2014年10月号掲載



炭素繊維複合材による配管補修

<複合材設計の考え方と適用事例>

1.はじめに


炭素繊維は日本発の技術であり、軽くて機械的強度が高いという特徴から、樹脂と組み合わせた複合材はゴルフクラブ用シャフト、自転車用フレームといったスポーツ用途をはじめ、近年では航空機(ボーイング787)や自動車の車体などの材料として広く利用されるようになっている。

この炭素繊維複合材を腐食・損傷などにより強度の低下した配管や圧力容器に巻きつけることによって、強度を復元または強化する技術の開発を1990年代から石油メジャーが開始し、ファーマナイト社が体系的な技術の確立を推進してきた。

2006年にはISO/TS24817およびASME/PCC-2にコンポジットリペアシステムの設計指針が公表された。2015年にはISO24817として正式に規格化されている。

本稿では、各種プラント配管の防錆および強度復元技術として2011年から当社が日本国内でサービスを開始した、炭素繊維複合材補修(Composite Repair)について設計の考え方と実際の適用事例について紹介する。


   

第1図 炭素繊維複合材補修 施工概要図


2.炭素繊維複合材の特徴

2-1 炭素繊維素材特性

炭素繊維は単独の材料として使われることは少なく、樹脂と組み合わせた複合材として用いられることが多い。

樹脂には多くの種類が存在するが、なかでもエポキシ樹脂は接着力、絶縁性、耐水性、耐薬品性が高く、炭素繊維と組み合わせることで、軽くて実用的な強度を持ち、なおかつ化学的に安定な複合材とすることができる。

第1表に金属と繊維の力学的特性を示しているが、炭素繊維の引張強さは非常に高くしかも密度が低いため、比強度が高くなることがわかる




2-2 炭素繊維複合材の特性


炭素繊維複合材は、繊維とマトリックス(エポキシ樹脂)の体積割合及び荷重を掛ける方向によって強度に大きな差が生じる。

例えば、第2図のように繊維の伸長方向と直角に荷重を加える場合、エポキシ樹脂の強度が全体の強度となるため20-40MPaの力で複合材は割れてしまう。

直角方向にも強くするためには、第3図のように繊維を90°方向にも編み込めばよい。


  

第2図 0°方向の繊維  第3図 0~90°方向の繊維


更に、繊維を45°傾けて配置することで、斜めからの荷重に対しても強い複合材を作ることができる。

この場合の一番弱い角度は22.5°であり、複合材の破壊荷重は繊維伸長方向の1/3程度になる。

炭素繊維複合材は炭素繊維とエポキシ樹脂を組み合わせた材料であるため、第1表の炭素繊維の引張強さをそのまま複合材の強度とすることはできない。

金属材料とは異なり、繊維複合材では繊維方向に働く力を考慮する必要があるため設計が難しくなるが、うまく組み合わせることで金属より軽くて強い材料を設計することができる。


繊維の配置方向を増やせば、理論上360°全周に対して同じ比強度を持つ複合材を設計することもできる。

しかし、繊維を増やすと反対にマトリックス(エポキシ樹脂)の体積比が減少するため、対象物との接着力及び複合材料全体としての靭(じん)性が低下し脆くなってしまう。

このような理由で、繊維とマトリックスの体積比は50-50%程度が好ましい。


第4図 0~45~90~135°方向の繊維


2-3 炭素繊維複合材の特性


炭素繊維複合材の引張試験の結果を第5図に示す。

試験では繊維とエポキシ樹脂の体積比をほぼ40:60となるように調整した。

例えばSS400のような炭素鋼では、降伏点を超える荷重を加えると塑性変形するために、荷重を取り除いても元の形状に戻ることはない。

対照的に、繊維複合材は第5図で示される通り破断するまで弾性変形しており、繊維量と破断ひずみがほぼ比例する。

ただし、繊維量を増やせば許容応力及び破断伸びは大きくなるが、複合材の靭(じん)性の低下につながることに留意する必要がある。


 

試験片A:ガラス繊維+エポキシ樹脂

 

試験片B:4方向炭素繊維+エポキシ樹脂

 

試験片C:2方向炭素繊維(引張方向の繊維量が試験片Bの2倍)+エポキシ樹脂



 

第5図 複合材の引張試験


2-4 複合材の熱膨張率


エポキシ樹脂は添加剤を加えることで架橋密度を変えることができるため、配管金属とほとんど等しい熱膨張率の理想的な複合材を設計することもできる。

このような複合材を用いた場合、配管と複合材の熱膨張率の差が少ないため、熱膨張率の差によって発生する応力が小さくなり、長期間安定した性能を発揮することができる。

温度変化のある配管に対しても複合材は補強効果を長期間維持できるため、プラント設備の長命化が可能になる。


2-5 配管に巻きつけて強度試験


外部腐食を再現するため配管を元厚の40%まで削り(写真1)、減肉箇所上に炭素繊維複合材を巻き付けて(写真2)破壊試験を行った。その試験結果を第6図に示す。


 
  

写真1 減肉を再現      写真2 試験体への巻きつけ


 

水圧による破壊試験を行ったところ、破壊されたのは減肉箇所ではなく、炭素繊維複合材を巻き付けていない溶接線上であった。

応力-ひずみ線図は第6図にように、伸びが0.1%付近でグラフの傾きが変わっている。

これは配管母材が降伏したために、0.1%以降の部分は炭素繊維複合材が全体の荷重を支えていることを示している。

炭素繊維複合材は弾性変形するため、別に行った25万回を超える繰返し荷重試験(SMYS36%-72%)においても、炭素繊維複合材を巻き付けた配管は新品の配管と同等以上の強度を持つことが示された。

減肉した配管においても荷重を受けるのは外側の炭素繊維複合材であるため、配管母材に降伏点を超える荷重が加えた場合においても、除荷時には再び弾性域に戻る。

このような結果から、繰返し荷重による劣化対策としても炭素繊維複合材による補強は有効であると考えられる。



第6図 炭素繊維複合材を巻いた配管の圧力ひずみ線図


3.設計及び施工事例


3-1 腐食による減肉部の強度復元(漏れなし)


ISO24817では、強度を復元するために必要な複合材厚みを計算する式を定めている。

配管周方向の補修厚みを計算する式を単純化すると次式のようになる。

必要な積層厚み=

 

許容応力、ヤング率及びポアソン比はISO24817の定める試験方法で求める必要がある。

式で示される通り、複合材の許容応力及びヤング率が高いほど、強度復元に必要な炭素繊維複合材の積層数は少なくなる。

第1表に示されるように、炭素繊維の引張強さ、ヤング率は素材として理想的なものであり、エポキシ樹脂と炭素繊維を複合材にすると軽くて強度があり、また接着性のよいバランスのとれた性質を示す。


 

写真3 炭素繊維複合材による配管補強例


3-2 管壁を貫通した穴による漏れがある場合の積層厚み


ISO24817では、損傷の形状に応じた補修厚みを計算する式を定めている。

配管の周方向に溝状の損傷がある場合の積層数を求める計算式を単純化すると次式のようになる。

必要な積層厚み=

 

上式で示される通り、ヤング率及び接着力が高いほど、漏れ止めに必要となる積層数は少なくなる。

貫通穴がある場合、内部流体が配管と複合材の境界に入り込み、配管の外側に向かって複合材を配管から剥がす力が働く。

そのため、複合材・配管母材間の接着力が高いほど、漏れ止め性能が高くなる。

内部流体の種類にもよるが、タンク、サポートとの接触部、更に溶接が制限される配管や構造物においても表面処理が可能であれば炭素繊維複合材による補修が可能である。


 

写真4 漏れを複合材で閉じ込める


4.複合材の性能を最大限発揮させるには


4-1 素地調整

複合材の性能を引き出すためには、接着力を可能な限り高める必要がある。

配管表面の錆、スケール等を落とすための表面処理に加えて、樹脂の接着面積を増やすために粗さを出す必要がある。

ディスクグラインダーやバフでは配管表面に適切な凹凸を形成することができないので、投射型ブラスト(ガーネット#36を使用)か、または写真5で示す「ブリストル・ブラスター」による素地調整が接着力を高めるために必要になる。


写真5 ブリストル・ブラスター

ISO24817による強度計算では、最長20年に及ぶ複合材の劣化を考慮した設計ができるため、接着力が高ければ設計通りの性能を発揮することができる。

結果として減肉配管の長命化が可能になり、定期修理でプラントを止める度に行う検査を削減できコストを削減につながる。


4-2 エポキシ樹脂と水分


エポキシ樹脂は1分子中に活性水素と反応するグリシジル基を2個以上有し、開環付加重合で硬化する樹脂である。

エポキシ樹脂の硬化反応中に水分が加わると、水と接触した部分の重合反応が阻害されるため、架橋構造が影響され接着強度が大きく低下してしまう。

配管表面に結露が生じる環境であれば接着力が低下するため、施工前に露点を確認する必要がある。

例えば外気温が20℃(湿度60%)であれば、配管表面温度が12℃以下で配管表面に結露が発生する。

目で確認できない程度だとしても、接着面への水分付着は確実に接着力に影響を与えるため、施工品質を確保するため配管昇温、除湿等の対策が必要になる。

逆に、湿度が90%であったとしても配管表面が60℃であれば、露点の心配をせずにエポキシ樹脂を使用することができる。

通常、エポキシ樹脂の容器には湿度85%を超えた場合は使用しないように注意書きがあるが、重要なのは接着面の結露の有無を露点計算で確認することである。


4-3 適用可能な温度域


エポキシ樹脂の架橋密度を変えることによって、複合材に耐熱性を持たせることができる。

現在、200℃を超える高温域においても使用できるエポキシ樹脂が開発されている。

硬化温度および硬化時間を管理することによって、エポキシ樹脂のガラス転移温度を高く設定することができるため、高温域に対応した施工も可能である。

ガラス転移温度までは樹脂の強度が増加するため、設計温度に応じた樹脂と硬化剤の組み合わせ及び熱硬化管理の適用により、強度計算が可能となっている。

一方、エポキシ樹脂の硬化反応は化学反応であるため、施工時の温度が7℃を下回ると重合反応が止まってしまう。

また、70℃を超える表面温度の配管に巻き付けた場合、樹脂が一瞬で硬化するため層間接着力の管理が難しくなるが、ファーマナイトでは90℃を超える温度の配管に施工した実績を保有している。


5.おわりに


国内ではまだ炭素繊維複合材による配管補修技術が浸透しておらず、再塗装、FRP巻き付け、鉄セメント等による簡易処置が主流であり、配管の長期延命化がなされていない。

本稿で紹介したとおり複合材料は「設計できる材料」、「優れた特性を持つ」、「強度を復元できる」ことが数々の実験で証明されている。

国内プラントでも本技術を採用いただき合理的で安全なプラント設備の維持向上に役立てたいと考える。


<参考文献>

(1) 日本機械学会編 材料学・工業材料  デザイン編β2 P210、P254

(2) 日本規格協会 圧力容器・ボイラ 2013  表B.3(2013)

(3) ISO・TS24817:2006, Petroleum, petrochemical and natural gas industries - Composite repairs for pipework - Qualification and design, installation, testing and inspection

(4) 日本機械学会編 材料学・工業材料  デザイン編β2 P213

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